この木製の板片のようなもの、何に使うのでしょうか?
一般の人には多分馴染みのない物だと思います。
これは主に京都の型友禅染めに使う道具で
「こまべら」と呼ばれています。(写真左)
その型友禅染めには、大別して二つの技法があります。
一つは摺込み型友禅です。
ちなみに業界では「スリ」と言われています。
音だけ聞けば物騒な響きですね。
摺込み型友禅は丸い形状の刷毛に含ませた染料液を
ほとんど拭い去った刷毛で
型に彫ってある模様に擦り付けて、ぼかし染める技法です。
刷込み友禅については参考に,
この動画をご覧ください。動画 型染め工程【蟹】
そして、もう一つの型友禅染めは糊と染料を練り合わせたものを
色糊と言いますが、その色糊を駒箆で、
しごいて型に彫られている模様を型付け(染める)する技法です。(写真右)
着尺等の染め型には星という小さな点が四隅にあり
※3地張りした生地の板の部分に目印が付くように
彫られていましてそれを目当てに型継ぎをします。
この星の目印に従って次々と型を送って染め進めます。
(※1絵羽の場合も※2墨打ちと星の位置情報で型を置きます)
染め型1枚の型付けができたら両手で染め型を剥がして
次に染める位置に持って運ぶのですが、
手は二本しかありませんので、
駒箆をどうすればよいでしょうか?
どこかに置けばその度、置いた場所まで取りに戻らなくてはなりません。
これでは作業効率が悪いのです。
では、どうするのか?ここが職人さんの奥の手です。
こま箆を口に咥えながら両手で染め型を持って次に染める位置に移動するのです。
一見、滑稽にも見えるのですが、
この一連の動きは俊敏で流れるような格好良さがあります。
写真の駒箆をよくご覧頂くと上の両角には染め型を移動する度に
職人さんが咥えた歯形が見て取れます。
長く使っていますと、ついには嚙み切れてしまうこともあります。
染めの現場で長年にわたり改良されてきた、
こま箆は柾目の木製で、適度にしなりがあり、
軽いので長時間使っても手が疲れず、
咥えても歯に負担が少なく、
板状の単純な形状なので糊を洗い流すときにも楽なのです。
駒箆はシンプルな作りながら実際に染めてみると理に叶っていて、
使いやすく安定して作業ができます。
伝統の染めの道具は実に奥が深く面白いものです。
※1 絵羽とは着物を仕立てた時に合口にある模様が繋がるようにした模様のつけ方。
※2 隅打ちとは1つの反物の中で、衽、本襟、掛け襟、袖、身頃などパーツの寸法を割り出して、
それを、どの位置に配置をするのか、その位置情報を生地の耳端に目印を付けることです。
※3 友禅板という反物約13メートルを折り返して板の両面に敷き糊張り。型染めをするための下準備。