題名 蒼い狼
逸ノ城関の着物をご注文いただきました。
・先ず、下絵の寸法設計をしました。
逸ノ城関はお相撲さんの中でも
特に大きい方なので仕上がりの寸法を設計するにあたり
関取が現在お召しになっている着物をお借りして
着物全体の寸法や襟、衽、前身頃、後ろ身頃、ゆき等、
細部にわたる寸法と縫込みを採寸しました。
その寸法を基にして図案を描くために原寸大の図案紙を用意しました。
絹生地は広幅の絽(夏物の生地)を用意しました。
・作品のテーマを決めて原寸大の輪郭線だけの下絵を描きます。
さてどのようなイメージの着物にするのかを考えます。
逸の城関はモンゴルご出身の関取ということで、
チンギスハーンのご先祖様は青い狼だったというお話から
モンゴルの平原を走る孤高の青い狼、
青い空はどこまでも広く、地平線へと続く雲の遠近、
そんなイメージで小さなラフスケッチを描きました。
次にそのラフスケッチを元に原寸大の図案紙に狼などを描きました。
我ながら、なかなかいい感じの原寸大の下絵になりました。
なのに、なのに、関取が最近、
急速に一段と大きくなられたと連絡が入ってきて愕然となりました。
なぜなら、そうなると寸法設計を一からやり直さなければなりませんからね。
身頃やマチの寸法等も伸ばして、大きくなられた分の寸法に修正をしました。
着物の全体の寸法が大きくなれば、それに伴って狼等、
全体に大きく描き直さねばなりませんでした。
染色家の立場からすると、染めている最中には太らないでほしいと、
切に思いました。でもまあ仕方がないですよね。
関取は大きくなることで強くなるのですから。
大きくなることはおめでたいのです。
・いよいよ染める前工程として、完成した原寸大の図案を布にトレースダウンします。
原寸大の輪郭線図案から絽の生地に狼や雲などの輪郭線を
青花という染色用下描き色素にて写しとりました。
ちなみに、この青花は作品完成後に水で簡単に洗い流せます。
・いよいよ染色工程です。
- 先ず地色(空の色)を染めました。
蒸し、水洗いをして一旦乾燥させました。
- 次に裾に描く青い波の平原をロウの堰出し技法にて染めました。
次はいよいよ主人公の蒼き狼を染めます。
- 蒼き狼本体を染めるための下準備として
狼の歯や目など細部もロウで描きました。
狼の輪郭線を融かしたロウの細い線で、ぐるっと一周、囲い描きました。
ロウの輪郭線は防染力があるのでロウの輪郭線で囲まれた
土手の内側を染めるときに染料が外へ流れ出さない仕掛けです。
- 青い狼を染める。
土手が完成した輪郭線の蒼い狼本体(内側)を
濡れ描きという技法で大胆に力強くぼかして染めました。
染色工程は全て順調でした。
- 仕上げ工程はロウを揮発水洗した後、蒸し箱に入れて染料を定着させます。
水洗い、幅出し、柔軟工程を経て完成となりました。
頑張れ逸ノ城関。応援しています。