引き刷毛は着物の地色を染める大きな刷毛です。
主に鹿の毛が使われています。
引き刷毛には3寸、5寸、6寸と3サイズがあります。(1寸は約3.03cmです)
3寸の引き刷毛は小さな面積の染めや、小ボカシには使いやすい刷毛です。
5寸刷毛は着物の地色を染める多くの職人に好まれています。
これには合理的な理由がありまして、
その一つには日本人の手にしっくりくるサイズ感であることです。
5寸刷毛よりも大きな6寸刷毛では生地との摩擦抵抗が増すので、
よほどの大きな手の人や筋力のある人でないと
刷毛を素早く動かして染めることが難しくなります。
では、なぜ引き染めでは刷毛を素早く動かして染める必要があるのでしょうか。
それはスローに刷毛を動かすと染料と水が分離して水形という斑(ムラ)が
発生して失敗になるからです。ですから引き染めでは斑の防止が大切なのです。
では、斑を防ぐためにはどうすればいいのでしょうか。
そのひとつの対策として布糊と豆汁(ごじる)で作った下処理液にて
予め塗布処理(この処理を地入れと言います)その後、染めます。
その斑防止の下処理(地入れ)を施してもなお斑が出ることがあります。
そこで必要な引き染めのテクニックとして刷毛を素早く動かして
斑になろうとする時間を染料と生地に与えないようにしますと斑は発生しなくなるのです。
斑の発生原因はその他にもありまして、地色を染め進めていきますと、
しだいに刷毛に含まれている染料液の含み量も少なくなります。
そこで刷毛に染料液を補給する必要があります(この染料液を補給することを刷毛継ぎという)
刷毛継ぎの時、生地から刷毛が離れる一瞬が斑の発生する魔の数秒間でして、
刷毛が布上に無い秒数が長いほど斑の発生確率は高くなります。
この刷毛継ぎ時の斑を防止するためには刷毛のテクニックがあるのです。
その秘訣は染料の含みが少なくなってきたタイミングで、
染めてきた染料際に染め斑が生じないように
素早く数回こすり染めしてから即座に
刷毛継ぎをして染め進めることで斑の防止はできるのです。
このような理由から引き染めの現場では刷毛を動かすスピードが要求されるのです。
1日中、刷毛を素早く動かしていますと当然ながら腕の筋肉が疲労します。
ですから引き染め職人は疲れにくい自分の手に合った刷毛を選びます。
自分の手に合うというのは具体的にはそのサイズ感と軽さ、
染めた時に腕に伝わる生地との摩擦抵抗感
(大きなサイズ6寸刷毛では生地との摩擦抵抗が増し、
しかも刷毛自体が重い上に、染料の含みも多くなり更に重くなると素早く動かしにくい)
また自らの体力や筋力等を勘案した結果、
引き染め職人は最も使いやすい5寸の引き刷毛をチョイスすることが多いのです。
引き刷毛の5寸というのは職人が使いやすいようにと経験から生み出したジャストサイズなのです。
染めの道具には人が使いやすい合理的なサイズ感があるのだと思います。
私が染めている、引き染めの動画がございますのでご覧ください。