◆なぜ神戸の夜景の着物を制作しようと思ったのか
神戸の街に震災が起こったのち、
復興のさなか
染色家として、何かお手伝いをできないかと考えて、
少しでも、染色を通じて
気持ちを明るくし、楽しんでいただきたい。
という思いから
神戸のNHK文化センターに
講師として通いはじめました。
時は流れ
震災後美しく復興した
神戸の街を、見渡したいという想いがあり、
六甲山に上がりました。
眺めているうちに日が落ちて
真っ暗な中、
浮かびあがる復興した街の美しさを
「ここまでよくぞ復興してくれた」という
感慨深い思いを抱きながら
眺めていました。
その風景を写生している間に
夜が明けてきて、白みはじめた空の色を
着物の地色にしたいと思いました。
眼下には
冷たい冬の澄んだ空気の中に
無数の灯かりが煌めいていました。
海に映り込む灯りのゆらめき
そこに生活があるであろう神戸の灯り
水平線遠くに見える対岸の大阪の灯り
その3つが響きあうように
幻想的に輝いていました。
その美しさに感動して
制作をしました。
着物は伝統的なコスチュームであり
模様や表現方法も
古典文様などは
十分魅力のあるものではありますが
今回の制作にあたり、かつての着物にはない
誰も見たことがない
現代性のある着物を作りたいという思いもあり
制作に挑みました。
◆制作
紙に描いた原寸大の下図を
生地に青花液を用いてトレースダウンします。
まず「煌めく光の点」をどのように表現するかを考えました。
その結果、「糊筒」からゴム糊を絞り出した点描で、
一粒一粒の灯かりを表現することにしました。
ゴムを置いた部分は防染効果が出て
染まらなくなることで
光の白い点が染まらずに残ることになります。
現実の神戸の街や海の灯りは
赤や黄色やカラフルな色でしたが
着物を作るにあたっては
そのカラフルさを排除して
白い輝きだけにしました。
そのことにより
神戸の夜景の美が際立った作品となりました。
海と、山はロウケツ染めで表現しました。
染めの工程が終わったあとは
「蒸し屋さん」に依頼して
ゴムと、ロウを揮発で洗い流してもらいます。
その後、蒸しなどの工程を経て、仕上げます。
着物の形に縫い合わせたら(絵羽)
あの時眺めた
神戸の美しい夜景が
裾模様に蘇りました。
この着物は、神戸の個展にてたくさんの皆様に
ご覧いただき好評を得ました。